急ぐな合併・守ろう安土みんなの会 論壇・寄稿文
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市町村合併と地方住民の暮らし

石寺住民 後藤修一

 「安土」という地名は日本史上に登場する歴史ある地名です。私が暮らす老蘇(オイソ)という地区には佐々木六角氏が居城、観音寺城趾があり、西国32番の札所で聖徳太子が建立したと言われる観音正寺があります。観音正寺、観音寺城趾のある繖山(キヌガサヤマ)の眼下には万葉集にも詠まれた蒲生野と呼ばれた平野がひろがり、史上に登場する「安土」よりも古くから名の知れた土地柄です。

 しかし、その実態は単なる田舎町、農業を主たる基幹産業にした人口12000の小さな町です。住民の暮らしはと言えば昔ながらの「農村共同体」の様相が色濃く残り、集落には10世帯前後で区分けされた「班(組)」があり地域生活を支えています。

 毎年春には住民世帯1票の選挙が行われ「区長」「総代」をはじめ地域の世話役が決められます。また、この班ごとに世話役である班長が決められ、毎月、区長が招集し班長会が開催されます。この区長を中心にした班長会が地域の暮らしの基本になっています。班長は神社の世話役も兼ね、神社の保守管理・運営にも携わります。

 村にはこの他にも様々な役があり、森林組合、農事実行組合、集落営農組合、水利組合、自警団、スポーツ振興会、老人会、婦人会、子ども会など毎年なにがしかの役を世帯ごとに分担しているのです。川掘り(用水路の保守整備)、道普請(ミチブシン:農道の保守整備)、草刈り、夜警、春祭り、盆踊り、区民運動会など、暮らしに欠かせない地域共有財産の保全管理からコミュニティーの維持管理まで住民自身が役務を分担して地域の暮らしは成り立っています。道路脇の草刈り、河川の浚渫、森林の下草刈りなどいわゆる都市に暮らす人々には想像できないほどの労務負担をしています。(全て無報酬です。念のため)

 こんな煩わしさをいやがり村を離れる若者も多く、村の人口は減少し続けています。私の母校である老蘇小学校も一時、学校周辺の宅地開発で児童数が増えましたが今では1学年1クラス、20人〜30人で全校生徒150人前後という状態になっています。

 地域住民の自治と役務によって成り立っている農村共同体にとって人口減少は重大な問題です。つまり、住民の多大なる役務によって維持されている地域コミュニティーとって役務者の減少はコミュニティーの機能不全を引き起こすからです。高齢化し役務者が減少することで道路や河川管理ができなくなったり、御輿の担ぎ手がいなくなり春祭りができなくなるなどコミュニティーの維持に支障をきたしてくるのです。

 こんな地域の暮らしにとって市町村合併は大問題です。合併を推進する行政やそれに賛同する住民は、村が疲弊する事を憂いて合併することで問題解決しようと考えています。しかし、少子高齢化・村の人口減少問題ははそんなに単純なものではありません。合併することで人口が増え、地域が活性化するかのような安直な考え方は妄想にすぎません。

 合併したとて地域生活の状況は変わらず、依然として農村共同体のまますすみます。この村が合併によって都市に変わることはありえません。行政改革の一環として進められる市町村合併の目的は地方行政のスリム化、更にいうと地方自治体財政の国庫負担削減にあります。地方自治体の数を減らすことで地方交付税を減らすことに真の目的があるのです。

 合併した周辺の自治体では合併前には維持していた幼稚園や小学校が合併後に統廃合され地域の人口減少に拍車がかかったという実例もあります。
 私たちの地域も同様、老蘇小学校のから2qほどの場所に近江八幡市立、武佐小学校と幼稚園があります。このまま児童数が減少すればゆくゆくは統廃合される事になるでしょう。そうなれば教育施設から遠い地域に転入者は無く、子育てに不便な地域からは若者も離れてゆきます。人口は更に減少し、地域コミュニティーの維持は困難を極めることになります。

 合併することで地方交付税が減少し、行政母胎が大きくなることで自治体の単位面積あたり、住民一人あたりに投下できる歳費の額も減少することになるのです。地域独自の施策、特色ある教育を実施しようにも予算もなく、施策を実施する行政母胎や教育委員会も合併によってなくなってしまいます。このように、都市とちがい農村地域にはきめ細かなその地域の実情に合った行政施策が必要なのです。市町村合併は農村地域に必要な行政機能を奪ってしまう事につながるのです。

 私は合併によって歴史ある安土という名が消えることもさることながら自らが暮らす地域が疲弊しコミュニティーが崩壊してゆく事に危機感を持っているのです。合併によって地域が活性化したという事例は聞いたことがありません。逆に合併せずに独自の手法で活性化させた小さな村や町の話はいくつも聞いたことがあります。私は私の暮らす地域コミュニティーを守り、自分たちのくらしを維持するためには合併が障害になると考え、異を唱えているわけです。

 地方の時代、地方分権が盛んに叫ばれ、基礎自治体の形成を旗印に平成の大合併は進められてきました。しかし、合併を推進・賛同する人たちは市町村合併は地方自治の根幹である地域コミュニティーの形成、住民一人ひとりの自治意識に悪影響を及ぼすことに気づいていません。地方自治は経済(財政)問題だけではありません。金銭問題では解決できない人の営みがあることに早く気づいてほしいと願っています。

寄稿 2009年6月22日



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